横浜能楽堂10周年記念企画公演というのが行われていて、今日はその2回目の公演があった。
能を見る人なんてあんまりいないのではないかという先入観があり、当日でもチケットは取れるだろうと高をくくっていたのだが、でも一応客人を案内することでもあり、念のためにと思って朝電話をしてみると、なんとチケットは完売だという。かなり焦る。キャンセル待ちがあるかと聞いてみると、今のところ一人だということだったので、キャンセル待ちをお願いした。1時間ほど後に、キャンセルがあったので、チケットが取れたと連絡があり、ホッとする。
能がこれほど人気があるとは思っていなかった(その理由は後からわかるんだけどね)。
午前中あたふたと買い物を済ませ、昨晩別の知人の家に宿泊していた客人との待ち合わせ場所に向かった。
ちょっと心配はしていたのだけれど、案の定やっぱりイタリア人。約束の時間から30分遅れると携帯にメールが入る。開演したら中には入れないと言われていたし、キャンセル待ちで取ったチケットなので開場前に行ってチケットを受け取らねばならず、またもや焦る。どうにか落ち合い、横浜駅からタクシーを飛ばして、なんとか間に合った。
横浜能楽堂を訪れるのは初めて。横浜にこんな施設があったんだとびっくり。チケットを受け取り、中に入る。能舞台なるものを初めて見た。
今日の演目は「翁」で、入り口でもらったパンフレットを読みながらイタリア語に訳して客人に伝えたんだけど、演者の名前を伝えたら、彼女の方がびっくり! 有名な能楽師だった。観世榮夫氏。能にまったく関心の無い僕には、名前を聞いてもピンとこないのだが、海外でもそうとう有名な人なんだそうだ。
能にもいろいろあるようで、プロでない、愛好家の人たちの、こういってはなんだけど素人公演も数多くあるみたいだけど、今日のは相当レベルの高い公演だったみたいで、チケットが完売なのも、それを聞いてウナヅケタ。
無知って言うのは恐ろしい。
今回の公演のテーマは、「能の保護と統制」で、まずは、それについてのミニ講座があった。講座というよりも座談会って感じで、NHKのアナウンサー葛西氏が司会を務め、横浜能楽堂の館長(?)である山崎氏と大鼓の河村氏の話。山崎氏は92歳というお年だそうだが、実にカクシャクとしていた。なんでも、能というのは江戸時代に幕府の保護を受けていたので、その時期に芸術として確固たるものが築かれたんだそうだが、反面統制も厳しく(勝手に演目を作ったり出来なくて、幕府の検閲が入ったようだ)、芸術としての発展という意味では、進まなかったというようなことが話された。この日の演目の主題は、打ち掛かりってやつで、大鼓を演奏する人が、歩きながら鼓を打つっていうのがとっても珍しい演目なんだそうだ。というのも、その起源は、一説には徳川家の将軍、別の説では秀吉の前で演じるときに、大鼓の奏者が遅刻をして、それを誤魔化すために、鼓を打ちながらステージに登場したっていうのが始まりだそうで、それが受けちゃったんで、演目として残っているんだそうだ。能が当時の為政者の保護の下に行われつつ、統制を受けていた時代に、多少のアドリブはOKだったてことの好例らしい。
会場にテレビカメラが何台も入っていたので、なんだろうと思っていたら、今日の公演は、来年の元旦にNHKで放映されるんだって。
ミニ講座の後に、いよいよ公演が始まったんだけど、なんというか、実に重々しい感じの「様式美」っていうのを感じさせるような始まりだった。見るのも聞くのも初めてで、興味津々。四捨五入すれば50になろうという人生において、初めて能なるものを見た(狂言は以前見たことがあるんだけどね)。客人はイタリア人で20代。なんか日本人として変な感じがしたのも確かだ。つい先日までは、沖縄からイタリアに行く空手の達人とイタリアで空手をやっているイタリア人の友人の仲介役をやってたんだけど、これも同じこと。僕は空手なんてまったくやったことがない。イタリア人の友人に空手をやったら良いのにと以前から薦められていたりするんだけど、なんだかイタリア人に日本のことを教わっているような変な状況が続いている。
さて、公演が始まってしばらくすると、鼓のリズムが心地よく、何を言っているのか分からない謡の声も心地よく、めちゃくちゃ眠くなってしまった。
どうにか眠気を堪え、見ていたんだけど、「翁」を演じる観世榮夫氏は、パンフレットの生年月日を見ると79歳。立って舞っているときは年齢を感じさせないんだけど、やはり座ったところから立ち上がるときは、かなりしんどそうだった。
翁が舞台から去ると、次の演者は狂言の野村万蔵氏。彼の動きを一目見て、客人は、「あ、狂言だ」と一言。脇にいた僕は、その違いが分からない。通訳する僕が分からないんだから、当然のことながらあらかじめ言っていた訳ではなく、そういえば、ミニ講座で、和泉流とか言ってたけど、能にも和泉流ってあるのか知らんなんて思っていた僕は、そこで初めて、狂言の和泉流と繋がって、納得した次第。4歳から知っている彼女を見る目が、とおーーーい目になってしまった。きっと子供に乗り越えられてしまった親って言うのはこんな感じなのかも知れないと思う。
普段話しているときは、実年齢よりもずっと幼い感じがする彼女なんだけど、なかなかどうして、しっかりしている。
公演の後、今日はどうだった?と聞いたら、良かったとの返事。僕のほうは、うーーーんって感じで、来年の元旦のNHKの放映を見れば、きっといろいろ解説付きでやってくれるんだろうから、それを見ようと思った次第。ちなみに今のところNHKの受信料は不払いしてるんだけどね。

